A:怪力の略奪者 ガジャースラ
象のような顔を持つマタンガ族は、近東地域にルーツを持つ、獣人種族なんだ。ただし、人語があまり得意ではないこともあって帝国の支配地域では、人権が認められていなくてね。弾圧を受けて、生息域を追われた集団もいるようだ。そうした流浪者が、東方地域に流れ込み、今度は略奪者となり、多くの被害を出している。「ガジャースラ」は、その筆頭格と言える存在だ。
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ショートショートエオルゼア冒険譚
イルサバード大陸北洲の南東の方角、オサード小大陸の南の海域には大小幾つかの島々が浮かんでいる。この地域を一般に近東諸島とか近東地域とかと呼ぶ。そしてこの島々を領有しているのがラザハンという都市国家であり、そのラザハンがある近東で最も大きな島をサベネア島という。
海に隔てられたサベネア島は他の地域では見られない独創的でカラフルな文化が根付いており、ラザハンの街並みも他の都市国家では見られないような極彩色の装飾で溢れている。
その近東ではサベネア島を中心に先住民であった獣人が人の社会に溶け込んで文化的な生活している。マタンガ・アルカソーダラ族と呼ばれるその獣人は顔も肌の質感も象だが人と同じような体形をしていて2足歩行、怪力もさることながら優れた錬金術師を排出するほどの知能も持ち合わせている。
一方、野生を好み文化的な生活を嫌い野生のまま全裸で暮らしている部族をガジャスーラ族という。
遥か昔、近東に人が進出してきた際、積極的に友好に努め協力して文化的な暮らしを選んだアルカソーダラ族と違い、ガジャスーラ族は人に対して徒党を組んで激しく反発し、人の村や町、建造物に対しその怪力を使い破壊の限りを尽くした。この時反撃を受け多くのガジャスーラ族が殺害され、捕えられたガジャスーラ族は野生動物のようにあしらわれ、奴隷としてオサード小大陸へと送られた。
これがオサード小大陸にマタンガ族が生息している理由である。同じマタンガ族でありながら天と地のような運命の岐路だった。
その後もガジャスーラ族の受難は続く。
それからまた果てしない時間が過ぎ、オサード小大陸は戦乱に巻き込まれることになる。覇権主義の軍事国家となったガレマール帝国軍が西州でアラミゴを陥落させたのとほぼ同時期、ガレマール帝国軍はオサード小大陸にもその触手を伸ばした。ドマを属国化し、事実上の占領政策が敷かれオサード小大陸各地にはガレアン人が溢れた。ガレアン人は冷酷でプライドが高く意地が悪い。ガレアン人は言葉が不自由な上、文化的な知能も持たないガジャスーラ族の人権を認めずガジャスーラ族はここでも激しい差別に晒される。この時期にも多くのガジャスーラ族がこれといった訳もなく殺害されたが、生き残った者たちは流石にこの待遇に耐え兼ね集団で暴徒化した。この時に暴徒の先頭に立ったのがガジャスーラ族の女性だった。女性は暴動後も暴徒をまとめ上げ山奥にガジャスーラ族の集落をつくり、ガジャスーラ族の安全を自ら守るため自警団を結成し、追撃して来たり、集落を解散させガジャスーラを奴隷に戻そうとする輩を撃退し続けた。やがて年月が経ち追撃も襲撃もなくなりガジャスーラ族に平穏が訪れたかに思われたが、そこで終わらないからこそ低能とか粗野と言われるが由縁だ。
ガジャスーラ族が集落をつくった山の麓には街道があった。この街道は水路で輸送されてきた農作物や食蠟、販売するための特産品や金銭そのもの川岸で水揚げし、ドマ城や城下町、その他集落へと運ぶために作られた街道だった。集落の治安が安定し守るべきものがなくなった自警団はよせばいいのにその街道へと出向き通行する者から通行料を捲き上げたり水揚げされた荷物を略奪するようになった。
これには暴動を導き指導した女性も胸を痛めた。何故ならその自警団の団長こそ女性の息子ガジャースラだったからだ。女性は何度も息子を説得したが元々差別や虐待を受け人を恨んでいる息子たち自警団は全く聞く耳を持たなかった。そして女性は心労が祟り、体調を崩すとそのまま亡くなってしまった。
ガジャースラは自らが反発しその心労で倒れた母の死さえ「人」のせいだと本気で考えていた。
「これは自警団だけじゃなくて集落も対峙したほうがいいのかしら」
もしかしたら集落はまた新たに自警団を組織するだろう。それがいずれはまたガジャースラのように略奪や強盗を働く野盗団になるんじゃないか、あたしはそれを懸念した。倒れて動かなくなったガジャースラの上に座ってあたしは本気で悩んだ。
「どうかな…」
相方はそう言うと、腕組みして少し考えて答えた。
「放っといていいんじゃない?依頼書にはそこまで書いてはないし。また野盗になったら今度こそ全滅させちゃえばいいんじゃない?」
そういうと相方は一列に並んで正座でかしこまっているガジャースラの手下共を睨んだ。